有給チャンス事件…おちついて、法的な考え方をしませんか

2018年8月18日頃にニュースとなった自販機大手ジャパンビバレッジの「有休チャンスクイズメール」事件。2016年6月ごろ、支店長が実際に「クイズに正解しないと有休あげない」としたメールを流したのは事実であり、厳正な処分がされるとのことです。「有給休暇がとれなくて当たり前」という現場社員の本音が見え隠れするこの事件、他社から見ても学ぶべき点が多いものです。問題点と、処分としての妥当性があるのか、検討してみたいと思います。

問題点① 支店長本人の問題

一般社員からすれば「中間管理職の発言=社長の発言」

年次有給休暇は、労働分野で最低基準を定めた労働基準法に明記されている、従業員の権利です。当然、クイズに正解しなくても、消化する権利が従業員にはあります

このクイズがとても難問であり、「年次有給休暇は消化できないのが当たり前で、消化してもらっては困る」という想いがにじみ出ている文章と感じられます。

出題者の支店長は、コストや生産性を管理する立場にあるのでしょう。働かないで給料が出る「年次有給休暇」を消化してもらっては、短期的にはチームの生産性が必ず落ちます。そこで、それを事実上禁じるルールを出します。

会社は、社会の上に成り立ちます。ですので、会社のルールは、社会のルールよりは弱いのです。つまり、法律は会社のルールに勝ちます、これは、労働法の基本です。しかしこの点、認識がなかったのだと思われます。

また、中間管理職である支店長本人は、社長の代わりに、担当するチームを率いている意識が希薄であるか、あるいは、この会社の社長はこの中間管理職の発言をよしとしている風土があるように思えます。「中間管理職であっても、一般社員からすれば社長と同じ使用者責任を負う」ということも理解がされていないようです。

さらに、地位を利用したパワーハラスメントとされる可能性もあります。労働者の権利を行使させなくする行為は、労働基準法違反として、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金の罰則が適用になりえる事案です。これは、行為者である中間管理職はもちろんのこと、このことで利益を得ることができる事業主にも課せられます。

それでも、「有給はとらせたくない」という想いを持ち続けることができるでしょうか。

問題点② マネジャー研修の希薄さ

支店長として任命される以上、優秀な従業員であったのだと思われます。しかし、マネジャーに対する研修は不十分であったと言わざるを得ません。

支店長が社長に代わって一部の従業員を管理する責務を負う以上、労務管理の基礎知識については充分に研修を行い、知らず知らずのうちに違法行為をすることのないよう、最善の注意を払う義務があります。どんなに営業成績が優秀でも、ゲームのルールを破れば反則で退場なのです。

これは経験則ですが、労務管理の研修はつまらないものになりやすいです。管理職等に法律を読ませても、全く意味がありません。そこで過去、実際に会社で発生したトラブルなどのケースを事案で労務研修を行うと、リアリティがグッと増し、座学の集合研修が生きた時間となり、管理職の血肉となります。

その意味で今回の事案は好事例でしょう。ジャパンビバレッジ社の全社員がよく問題点を把握し、再発を防止する必要があると言えます。

「こいつと一緒にするな」という声も聞こえてきそうですが、一人、労働法に理解のない中間管理職がいれば、きっともっと多くの従業員が労働法に理解がない状況であると推察されます。ハインリッヒの法則があてはめられて考えられます。

1件の重大なミス:29件の中程度のミス:300件の細かいミス

この1件の陰には、300件の小さな背景があったのではないでしょうか。

問題点③ 会社の「有給チャンス」メールの初動

問題が大きく報じられる2年前の事案ですので、今さら感がありますが、当時は匿名証言とは言え、内部通報があったようです。しかし、匿名だったため、支店長を厳重注意に処した程度にとどめたということです。つまり、会社としても全く知らなかったわけではない、ということになります。

会社側の言い分として理解できる部分もあります。内部通報が匿名だと、情報の信ぴょう性に欠けるのは事実です。証拠はつかんでいたとしても、それ自体が偽造である可能性が否定できない状況です。

一報、申告した従業員も、匿名で言わなければ報復を受ける可能性があったことを踏まえると、理解できる側面もあります。

なお、公益通報者保護法により、内部通報者への解雇その他不利益取り扱いはしてはならないこととなっています。しかし、この法律に罰則はなく、強制力が弱いのかもしれません。罰則適用は現段階で検討中との報道があります。

問題点④ 会社の名誉を傷つける公開情報となった

この事件は、実に2年以上もたってから報道され、大きく取り上げられました。この事件自体は、たしかに会社や支店長に大きな問題点がありますが、2年もたった今、会社が改めて支店長に罰則を与えることは、道義的にできるのでしょうか。すでに、事案発覚の初動で、厳重注意処分を行っています。

仮にそのような言動で有給がとりづらい状況を作ったとしても、賃金時効は2年ですので、当時の有休はもはや使うことができません。きっと、消化せずに時効を迎えたのでしょうから、従業員の方々におかれましては、大変気の毒です。

年次有給休暇の消化状況は、会社の「ブラック企業度」のバロメーターとなっています。有休消化が進まないからこそ、働き方改革関連法改正で、有休5日の消化義務が法制化されたのでしょう。この点、大きな汚点を企業に残してしまいました。

結局、妥当な処分は

しかし私は、会社が支店長を指導する権利はないのかな、と思います。なぜなら、1事案に処分を2回行うのは、やっぱりフェアでないからです。仮にこれを行えば、支店長としては、会社に対する民事的な損害賠償請求権が発生する可能性もあります。会社が支店長を守る、というよりも、ルール運用を守る姿勢を出すのが筋です。

とは言え、これだけメディアに放送されては、支店長の立場もないでしょう。会社の人事は、支店長を退職勧奨し、諭旨解雇をすすめるのではないでしょうか。トカゲのしっぽ切り、という形のクロージングになる可能性が高いと感じます。

再起の可能性

ここまで記載すると、いかにこの会社の中で法的な考え方がされていないか、がっかりするくらいです。しかし落ち着いて考えますと、今ユニオンが騒いでいる状況で、もし支店長を守る判断を会社がするならば、それは最後の最後で「会社が法的な考え方がなされた」と評価したいと思います。他の従業員にそっぽ向かれてしまっても、支店長がこの企業内で生きて行こうとする意欲がまだあるならば、応援したい気持ちがあります。

昔から日本には「一事が万事」という、とても良い言葉があります。法的な考え方ができる組織ならば、きっと有給消化率も改善できるに違いありません。

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